2021年10月29日発売
1. Blade Runner
2. Bella Donna
3. Highway To Mars
4. Hardcore
5. One Night In Tokyo
6. Moonlight Rendezvous
7. Revengeance Machine
8. Dark New World
9. To The Last Drop Of Blood
10. Broken Survivors
11. My Dystopia
12. Battle Hymn (MANOWAR Cover)
13. They Don’t Care About Us (MICHAEL JACKSON Cover)
デジタルでダンサブルなキーボードアレンジが、サイバーパンクの世界観を演出
アントン・カバネン(ギター&キーボード)率いる、フィンランド人とギリシャ人とハンガリー人の混成メンバーによるパワーメタルバンドBeast in Blackの3rdアルバム。
Beast in BlackはBattle Beastをクビになったことでアントンが結成したバンドである。
1stアルバム、2ndアルバム共に好評を博し、ヨーロッパを中心に着実に人気を積み上げてきた。
アントンは三浦建太郎などの日本のSFのファンのようで、バンド名は三浦建太郎の代表作ベルセルクに由来しているらしい。
1stアルバムのタイトルもBerserkerで、これもベルセルクから取られている。
本作のテーマはサイバーパンク(SFのサブジャンル)となっている。
Battle Beastの1stと2ndのテーマもサイバーパンクだったので、やはりアントンはこういうSFものが好きなのだろう。
Highway To Marsのボイスオーバーはアミテージ・ザ・サードの1stエピソードから、Revengeance Machineのボイスオーバーは電脳都市OEDO808の1stシーズンから引用されていて、このことからもかなり日本のSFが好きなのが窺える。
このアルバムがBeast in Blackの未来を占う重要な1枚であることは間違いない。
どのバンドにとっても重要な3rdアルバムだからである。
その内容はどうなっているのか?
楽曲レビュー
#1“Blade Runner”はキラキラキーボードに導かれ、すぐに疾走を開始するパワーメタルナンバー。
クラシックメタルのフィーリングを持った突進系パワーメタルで、典型的なBeast in Blackの楽曲。ダンサブルでサイバーなキーボードも強調されていて、このバンドの個性が良く出ている。
ヤニス・パパドプロスのハイトーンも相変わらず素晴らしい。
#2“Bella Donna”は1stアルバムに収録されていたBlind And Frozenに少し似ているが、やはりサビのキャッチーさが素晴らしい。
とにかくメロディが良いので聴いているとあっという間に時が過ぎてしまうのは流石のアントンクオリティ。
#3“Highway To Mars”はミドルテンポでエイティーズっぽいフィーリングを持ったシンセの強いキャッチーな曲。
間奏のソロもゴージャスで、このアルバムらしいサイバー感をダンサブルなキーボードと共にたっぷり堪能出来る。
このバンドにしては長めの間奏だが、冗長さは全くない。
エイティーズの美味しい所をたっぷり取り込んで、ヘヴィメタルに昇華したような強力な楽曲だ。
#4“Hardcore”はミドルテンポのシャッフル系ナンバー。
ゴージャズなキーボードアレンジにキャッチーなサビと、勿論これもファンの期待を裏切らない楽曲となっている。
#5“One Night In Tokyo”はこのアルバムからの2ndシングルで、ユーロディスコっぽいキーボードがフィーチャーされた名曲。
アニメーションによるミュージックビデオも作られている。
このキーボードによるメインリフとサビのメロディが本当に素晴らしく、筆者はしばらくこの曲にハマってしまった。
歌詞は来日時の東京での出来事についてらしい。
#6“Moonlight Rendezvous”はまるで映画のような大掛かりなミュージックビデオ(一見の価値あり)が話題を呼んだ曲で、アルバムからのファーストシングル。
彼らにしては長くて壮大な雰囲気のイントロから始まり、かなり期待させられる。
しかしそのイントロ自体キーボードのリフがキャッチーで印象的だ。
ミドルテンポでかなり練り込まれた曲となっていて、Beast in Blackの地力を感じさせる。
歌詞もミュージックビデオも映画ブレードランナーを意識しているようだ(心を持った用済みとなったアンドロイドがハンターから逃げるというような話)。
↑ Moonlight Rendezvousのミュージックビデオ。これのために脚本も作られ、メンバーは演奏ではなく演技をしている。
#7“Revengeance Machine”は疾走系正統派パワーメタルナンバー。
やはりキーボードのアレンジはゴージャスで、Beast in Blackらしい。
後半静かになるパートでは更にキーボードがフィーチャーされ、アルバムの世界観が良く出ている。
#8“Dark New World”はクラシックメタル的なAcceptっぽいリフで始まる。
彼らの曲にしてはかなり正統派な曲だが、キーボードは相変わらずたっぷりと入っている。
#9“To The Last Drop Of Blood”はJudas Priestっぽいリフで始まるアップテンポの正統派メタルナンバー。
キラキラなキーボードアレンジがBeast in Blackらしい曲だが、ちょっと彼らにしては地味な出来か。
#10“Broken Survivors”はかなりエイティーズっぽい曲。
ヘヴィさは保ってはいるが、サビなんてメロディアスハードみたいな甘さのあるメロディだ。
間奏ではキーボードによるドラマティックなフレーズが飛び出す。
しかしこのアルバムのメロディの充実度は凄いものがある。
#11“My Dystopia”は美しいキーボードにより始まるこのアルバム唯一のバラード。
バラードだがしっかりヘヴィさもあり、キーボードによってサイバーパンクっぽい世界観も保っている。
Of my dystopiaと歌っている部分のメロディがかなり印象的で耳に残る、素晴らしい曲となっている。
#12“Battle Hymn”はManowarのカバーでオリジナルにはないキーボードが入っているが、普通にBeast in Blackの曲として聴かされても分からない程馴染んでいて、全く違和感を感じさせない。
まぁ元々彼らはManowarにもかなり影響を受けているので当然だが。
#13“They Don’t Care About Us”はマイケル・ジャクソンの名曲のカバー。
どの時代にも通じるような普遍的な政治メッセージを持った歌詞が魅力のナンバーである。
このバンドにはポップな一面もあるので意外とハマっている。
バンドのバックグラウンドの広さを示すという意味でも、この曲は収録されなければいけなかったのだろう。
総評
とにかく聴いていて楽しいアップリフティングなメタルアルバムに仕上がっている。
豊潤なメロディと共に、バンドの勢いが封じ込まれたアルバムとなった。
とにかくどの曲にもキャッチーなメロディが満載で、ファンの期待を裏切らない強力なアルバムだ。
爽快な分かりやすさを備えている彼らの音楽が、更に次のレベルまで進んだ感がある。
もしアコースティックギター1本で彼らの曲を弾き語ったとしても楽曲の魅力は伝わるであろう、根幹となるメロディの充実度は過去最高だ。
先行シングルとなったOne Night In Tokyoがやたらディスコ風だったので、アルバムの方向性も変わるのかとも思ったがそんなことはなく、ちゃんとメタルしている。
確かにサイバーパンクの世界観を演出するために、デジタルでダンサブルなキーボードアレンジが今まで以上にフィーチャーされてはいるが、しっかりとヘヴィメタルバンドとしてのバランスは保たれていて、何がBeast in Blackなのかを分かっているアントンの感覚が素晴らしい。
個人的にはクラシックメタルっぽい曲よりダンサブルでポップな曲のほうが出来が良い気がするので、そっち方面に舵を切ってもらっても全然構わないのだが。
今のフィンランドらしい、懐かしさと新しさの融合したサウンドを内包しているアルバムでもある(Beast in Blackは多国籍バンドだが活動の拠点はフィンランド)。
多くの人へ訴求出来るであろうこのアルバムと共に、彼らがより飛躍することは間違いないと断言する。
今のヨーロッパのメタルシーンのトレンドという意味でも、このアルバムが売れることは間違いないだろう。
点数
90点
お気に入り曲
Bella Donna、Highway To Mars、One Night In Tokyo、Moonlight Rendezvous、Broken Survivors、My Dystopia、They Don’t Care About Us
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