2022年6月15日発売
1. Schadenfreude
2. 朧
3. The Perfume of Sins
4. 13
5. 現、忘我を喰らう
6. 落ちた事のある空
7. 盲愛に処す
8. 響
9. Eddie
10. 御伽
11. カムイ
DIR EN GREYの集大成か
かつては全米ビルボードチャートの総合ランキングにチャートインするなど、海外でも実績のあるヴィジュアル系ロックバンドDIR EN GREYの11thアルバム。
7thアルバムUROBOROSをDream Theaterのマイク・ポートノイが絶賛したり、かつて存在していたメタラーの祭典LOUD PARKにも出演するなど、メタラーにも認知度が高い(先月のBURRN!にも薫のインタビューが載っていた)。
8thアルバムDUM SPIRO SPEROで音楽性は頂点を極め、そのプログレッシブでカオティックな路線はメタラーからも好意的に受け止められた。
9thアルバムARCHEではよりシンプルに削ぎ落とされ、個々の楽曲のクオリティで勝負。
前作の10thアルバムThe Insulated Worldではハードコア路線に寄り、初期衝動をもう一度取り戻しにいったような荒々しさのある音像を披露していた。
3年9ヶ月ぶりとなる新作の内容はどうなっているのか?
楽曲レビュー
#1“Schadenfreude”は今作の目玉となる長尺曲。
目まぐるしく展開が変わるが繰り返しが多く、キャッチーなパートも多いので聴きやすさもある曲。
サビの入りのギターはブラックメタルっぽかったりもする。
自然体でヘヴィネスと、彼等独特のメロディを融合させた現在のDIR EN GREYを象徴するような曲と言える。
#2“朧”はシングルになったフックのあるサビが印象的なバラード。
アレンジも構成もシンプルで、メロディの良さでじっくりと聴かせる。
削ぎ落とされた重要な音だけで聴かせるような、円熟の引き算の技が感じられる曲だ。
京もシンプルに美声で朗々と歌い上げている。
↑ 朧のミュージックビデオ。
#3“The Perfume of Sins”は禍々しいイントロからブラストビート+シンフォニックなキーボードサウンドへと流れ込むブラックメタルっぽい曲。
作りっぱなしな雰囲気もあるが、DIR EN GREYの音楽性の幅広さを見せた曲だ。
#4“13”はサビがヴィジュアル系っぽいキャッチーさのある、ちょっと懐かしい匂いのする曲。
しかしやはりDIR EN GREYの曲だけあって一筋縄ではいかない展開とアレンジの妙で、捻りがしっかりと効いている。
#5“現、忘我を喰らう”はリズムが複雑な、UROBOROS以降のDIR EN GREYっぽい摩訶不思議で混沌とした曲。
歌メロは和風な所があり、日本のバンドらしさを強調している。
初期のDIR EN GREYっぽさも感じさせる曲だ。
#6“落ちた事のある空”はカオスさもあるがサビがキャッチーなシングルになった曲。
今のDIR EN GREYらしい、展開とアレンジの妙が注ぎ込まれた円熟味を感じさせる出来だ。
#7“盲愛に処す”はヘヴィネスと変拍子が混ざったDIR EN GREYらしい曲。
サビの歌メロはドラマティックに聴かせる。
ヘヴィでドラマティックなパワーバラード#8“響”に続く#9“Eddie”は、本作唯一のライブで暴れられる系ナンバー。
サビらしい部分以外はすべてシャウトで歌っている。
全体のバランスを考えて入れられたような曲だが悪くない。
#10“御伽”はヴィジュアル系っぽい歌い方で、完全に初期の匂い(MACABREあたり)のする歌モノバラード。
メロディはなかり良く、混沌とした雰囲気もある。
ハイトーンを使わず、朗々と歌い上げているのが逆に新鮮である。
#11“カムイ”。
ヴィジュアル系歌モノバラードその2。
こっちはもっと哀愁のある感じだ。
と言ってもサビまではかなり暗いが。
これは最早歌謡曲と言ってもいいのではないか、という程歌モノに寄った曲だ。
後半ヘヴィになったりと展開もあるが9分以上もあるので、ちょっとダレる感じもある。
総評
DUM SPIRO SPEROで音楽性を極め、ARCHEとThe Insulated Worldでは違う方向性を模索していた感があるが、今回は特に背伸びすることなく、これまで学んできたことを自然体で表現していると感じた。
現在のDIR EN GREYをそのままぶつけてきたというイメージだ。
UROBOROS、DUM SPIRO SPEROの時のような気張った感じは全くない(あれは気張っただけに凄いものが出来上がったのだが)。
もうヴィジュアル系であることに堂々としていて、ある意味2ndアルバムMACABREを現代にアップデートしたようなアルバムとも言えるのではないか。
これまでに培った色々な要素が入っていて、DIR EN GREYの集大成とも言えるかもしれない。
凄いアルバムという印象はないが、円熟した彼等の技を色々と聴けて面白い。
一見シンプルだが、明らかにUROBOROS、DUM SPIRO SPEROを通過した後の音という部分ではARCHEに通じる所がある。
ラスト2曲では初期に回帰したかのような歌モノを披露していて、ここに来て一周回った感がある。
初期のヴィジュアル系っぽさが強いこのアルバムは、昔から聴いてきたファンには嬉しいアルバムなのではないだろうか?
メタラーの自分としてはDUM SPIRO SPEROがやはり彼等の最高傑作だという思いがあるが、これはこれで円熟味を感じさせる良いアルバムではあると思う。
今作ではキーボードが効果的に使われているのも特徴で、ふんだんに駆使し丁寧に場面描写をしている。
シンフォニックな音像のパートも多く、これまで以上に壮大で荘厳な雰囲気が支配しているアルバムでもある。
丁寧に音を積み重ね音世界を作っていく彼らのスタンスは、相変わらず大いに共感出来る所がある。
点数
85点
お気に入り曲
Schadenfreude, 朧, 13, 落ちた事のある空, 御伽
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