最初のパワーメタルアルバムがHelloweenのWalls of Jerichoだとしたら(異論は色々あるだろうが)、パワーメタルが生まれて36年の月日が経っている。
その36年の歴史の中から、筆者が個人的に名曲だと思う選りすぐりの20曲をここに紹介する。
この20曲を聴けば、パワーメタルというジャンルが実は幅広い音楽性を持っていることが分かってもらえると思う。
パワーメタルをこれから聴こうと思っている人には勿論参考になるだろうし、パワーメタルを愛聴している人が見ても、そうだよなと納得して楽しんだり、新しい発見のあるリストになっていると自負している。
ちなみにメロスピ(メロディックスピードメタル)はパワーメタルの日本独自の呼び方である。
目次
- Angra – Carry On
- Rhapsody – Emerald Sword
- Helloween – I Want Out
- Sabaton – The Last Stand
- Sonata Arctica – San Sebastian
- Blind Guardian – Battlefield
- DragonForce – Through the Fire and Flames
- Stratovarius – Black Diamond
- Running Wild – Riding the Storm
- Powerwolf – Demons Are a Girl’s Best Friend
- Riot – Thundersteel
- HammerFall – Hearts on Fire
- Nightwish – Stargazers
- Edguy – We Don’t Need a Hero
- Beast in Black – One Night in Tokyo
- Heavenly – Lost in Your Eyes
- Brothers of Metal – Kaunaz Dagaz
- Gloryhammer – Angus McFife
- Royal Hunt – Last Goodbye
- Bloodbound – Moria
Angra – Carry On
ブラジルの至宝Angraのキラーチューン。
クラシックの要素とスピードメタルの要素が完璧に融合している。
驚異的なハイノートを使っていて歌うのもかなり難しい曲だが、作曲者アンドレ・マトス自身が完璧に歌いこなしているから凄い。
アンドレ・マトスの孤高性と天賦の才を世に見せつけた名曲である。
残念ながらアンドレ・マトスは2019年に47歳の若さで亡くなってしまったが、彼が残したこの名曲は後世まで語り継がれるだろう。
Rhapsody – Emerald Sword
イタリアのシンフォニックパワーメタルのパイオニアRhapsody(のちに商標の問題でRhapsody of Fireに改名)のアンセム。
シンフォニックで壮大なアレンジ、戦士がエメラルドソードを探し求めるという厨二的な歌詞の個性は圧倒的だった。
ファビオ・リオーネのイタリア人らしいオペラティックで力強い歌声がこの曲に乗るとまるでアニメソングの主題歌のようにも聴こえ、欧州に限らず日本でも人気が出たのも納得である。
特別ハイトーンを使っているというわけでもなくシンプルにメロディが良い曲で、Rhapsodyのやりたいことがこの1曲にかなり集約されている。
とにかくこの曲のハイライトはFor the king for the land for the mountains~と歌う強烈にキャッチーなサビだろう。
一緒に歌いたくなる魅力に溢れていて、勿論ライブでは観客は大合唱である。
Helloween – I Want Out
イントロのツインギターのフレーズが強烈にインパクトのある、ドイツのパワーメタルの始祖Helloweenの代表曲。
所謂スピードメタルチューンではなく、キャッチーである意味ポップさもあるメロディで聴かせる。
I want outと歌うサビはフックに満ちていて、マイケル・キスクのクリアで強烈なハイトーンも非常に印象的。
全体に漂うこの不思議なコード感とメロディ感はカイ・ハンセン節で、ジャーマンメタルを代表する名曲である。
I want outという歌詞は当時バンドを辞めたがっていたカイ・ハンセン本人の心の叫びとも言われている。
歌詞を読む限りだと、生徒を型にはめてくる学校に嫌気が指している10代の少年の心境が表現されているようだ。
Gary MooreのOut in the Fieldsとの類似がよく指摘されるが、確かにインスピレーションはこの曲から得たのかもしれない。
いずれにしてもI Want Outが個性的なジャーマンメタルソングであることは間違いない。
現Helloweenの実質的リーダーであるマイケル・ヴァイカートはこの曲が好きではないらしい。
Sabaton – The Last Stand
欧州で絶大な人気を誇り、ほとんどの楽曲の題材が実際に起こった戦争という、歴史の勉強も一緒に出来る稀有なスウェーデンのバンドSabatonの代表曲の一つ。
この曲ではローマ略奪の際に皇帝軍から教皇を守り、サンタンジェロ城へと逃がしたスイス衛兵の活躍を描いている。
ミドルテンポの曲に乗せた超絶キャッチーな親しみやすい歌メロが売りのSabatonだが、この曲は決定版の一つ。
アンセムチックなサビ、良いメロディを奏でるギターソロ、Cメロの盛り上がりと、完璧である。
ハイトーンボイスは使わず中低音でしゃがれ声で歌い、スピードに頼ることもない。
良い曲に必要なのはキャッチーな良いメロディだけなのだというSabatonの美学がここにある。
Sonata Arctica – San Sebastian
フィンランドの孤高のバンドSonata Arcticaの失恋パワーメタルチューン。
太陽のように眩しすぎた恋した女性のことを忘れられないという、女々しい歌詞がSonata Arcticaらしい。
終始リズムは一定だし繰り返されるメロディも多いので単調にも思えるが、その単調さが逆にクセになるような魅力がある。
この頃のSonata Arcticaならではのギターとキーボードによるソロバトルもハイライトで、特に日本で人気のある曲である。
Blind Guardian – Battlefield
ドイツ語で書かれた英雄歌で、父と子の闘いを描いたヒルデブラントの歌を題材にしたジャーマンパワーメタルレジェンドBlind Guardianの必殺チューン。
幾重にも重ねられた壮大なクワイアと共に、次々に劇的なメロディが押し寄せる圧巻のナンバーとなっている。
3:55~からのオペラティックな展開はまるでQueenを彷彿とさせる。
最後のサビが終わった後のアウトロではフックのあるギターフレーズと共に疾走を開始するのだが、この部分がまたカッコいい。
Helloweenとは別の進化を遂げた、Blind Gardianの本領発揮というべき名曲である。
DragonForce – Through the Fire and Flames
ハイパーソニックなエクストリームパワーメタルサウンドで、パワーメタル不人気の地アメリカでも人気を獲得することに成功した多国籍バンド(活動の拠点はイギリス)の代表曲。
超高速のドラムはデスメタルバンドからの影響で、そこに乗るあまりにフラッシーなギターソロの嵐。
それまでのパワーメタルの基準で考えたらあまりに過激で異次元なサウンドが展開されているが、歌メロがキャッチーなメジャー系で、まるでメロコアのようだから本当に面白い。
この曲には彼らのやりたいことが集約されていて、歌メロの濃度が最高潮に達している。
シングルとなったこの曲はBillboard Hot 100で86位を記録し、バンドとして最も成功した曲となっている。
Stratovarius – Black Diamond
イェンス・ヨハンソンのネオクラシカルなハープシコードによるイントロが印象的なフィンランドのレジェンドStratovariusの代表曲。
中世ヨーロッパ的な美学が楽曲を支配していて、ネオクラとパワーメタルの融合というStratovariusのアイデンティティが分かりやすく出ている名曲。
そしてやはりこの親しみやすい歌メロが魅力的だし、その歌メロを歌うコティペルトのナイーブな声も楽曲にぴったりハマっている。
ボーカルのティモ・コティペルトによる歌詞は、あまりに完璧な女性の前で為す術がないというものだが、San Sebastianといいフィンランドのバンドは恋愛系の歌詞が好きなのだろうか。
Sonata Arcticaのトニー・カッコが衝撃を受け、パワーメタルをやることに決めた曲でもある。
Running Wild – Riding the Storm
海賊をテーマにしたメタルのサブジャンル、パイレーツメタルの始祖であるドイツのRunning Wildの代表曲。
パイレーツメタルの概念は彼らが1987年にリリースした、海賊やその周辺の歴史をテーマに据えた3rdアルバムUnder Jolly Rogerからスタートしたのだ。
この曲は5thアルバムDeath or Gloryのオープニングナンバーで、海賊の生き様を描いた歌詞が高揚感のあるメロディに乗って歌われる。
やけにイントロが長いのだが、この長いイントロが広大な海原への冒険をイメージさせ、ワクワクさせてくれる。
パワーを伴って突進していくような力強さのある、漢メタルここにありの名曲である。
Powerwolf – Demons Are a Girl’s Best Friend
コープスペイントを施しローマカトリック教会、人狼、吸血鬼などのダークなイメージを打ち出している、欧州で大人気のジャーマンメタルバンドPowerwolfの人気ナンバー。
無垢と誘惑がトピックだというこの曲は何処かポップさのあるメロディがモチーフになっていて、そこに重厚なチャーチオルガンによるアレンジが組み合わさり新鮮な曲となっている。
とにかくこのイントロとサビで使われているメロディが良く、耳に残るのが特徴だ。
ちなみにこの曲はチェコでプラチナレコード賞を受賞している。
アーティスティックで意味深なミュージックビデオも必見だ。
Riot – Thundersteel
マーク・リアリ(ギター)を中心に結成されたアメリカのバンドの代表曲。
この曲が収録されているアルバムの発表前までRiotは休止状態で、休止前はハードロック要素も強い正統派のヘヴィメタルをプレイしていたが、突如パワーメタル化しファンを驚かせた。
激しいダブルベースドラムに金属的なリフ、耳をつんざくようなハイトーンボイスのコンビネーションは新たなRiotの方向性を明確に主張していた。
正統派アメリカンパワーメタルの教科書とも言うべき曲である。
HammerFall – Hearts on Fire
メタル冬の時代であった1997年にデビューした、メタルの伝統を継承するスウェーデンのレジェンドHammerFallの代表曲。
とにかく分かりやすいのがHammerFallの楽曲の特徴で、この曲はサビのHearts on Fireの男臭いコーラスが妙にキャッチーで印象的である。
特に難しいことをやっているわけではないのだが、一緒に歌いやすく親しみやすいメロディが硬派なメタルと一体となっていて、圧倒的なメジャー感があるのである。
ちなみに女子カーリングのオリンピック代表チームを応援するためにこの曲のプロモーションビデオが作られ、チームからは4人がノリノリで出演している。
Nightwish – Stargazers
フィンランドの国民的シンフォニックメタルバンドNightwishの初期の作品。
基本的にシンフォニックメタルバンドと見做されているNightwishだが、2ndアルバムのOceanbornではStratovariusやGamma Ray等に影響を受けたシンフォニックパワーメタルをやっていた。
大仰なイントロに続き、ダブルベースドラムでキーボードソロを伴いながらクラシカルに疾走。
その後ギターのソロによるキャッチーなフレーズが炸裂する構成は、好き者ならこれだけで悶絶である。
2回目のサビの後はNightwishらしいオペラティックな展開が聴ける。
Nightwishの耽美性とパワーメタルが高次元で融合した、珠玉の名曲である。
Edguy – We Don’t Need a Hero
トビアス・サメット率いるジャーマンメタルバンドEdguyの6thアルバムからの曲。
ヒロイックなメロディと共に疾走するEdguy屈指のキラーチューン。
トビアスはかなりの高音で歌っているが、しっかりと伸びのある声を維持しているので聴いていてスカッとする気持ち良さがあるし、メロディの扇情力も半端ではない。
後半はシンフォニックなパートも登場し、曲の壮大な世界観が表現されている。
Beast in Black – One Night in Tokyo
元Battle Beastのアントン・カバネン(ギター)を中心に結成されたフィンランドのバンドBeast in Blackの3rdアルバムからの曲。
日本に来日した時のエピソードをテーマにした楽曲ということで、タイトルにTokyoが入っている。
3rdアルバムDark Connectionのテーマはサイバーパンクだったが、この曲は特にユーロビート/イタリアンディスコ的サウンドがフィーチャーされていて、よりそういった世界観が強く表現されている。
80’sのフィーリングもあり、今流行りのサウンドであると言える。
キーボードリフがとにかく超絶キャッチーで、サビもその上に歌メロが乗る作りになっている。
硬派なヘヴィメタルからはかなり遠ざかった音像になっているが、ヘヴィメタルの可能性をまだまだ感じさせる楽曲である。
Heavenly – Lost in Your Eyes
フランスのパワーメタルバンドHeavenlyの5thアルバムからの曲。
初期はモロにHelloween、Gamma Ray直系のジャーマン系サウンドだったが、最新作5thアルバムCarpe DiemではQueen由来のシアトリカルな世界観を取り入れていて、この曲ではそれが上手くパワーメタルと融合している。
重厚なクワイヤを取り入れつつ、叙情的なメロディアスさと共に疾走しコンパクトに聴かせるというHeavenlyの決定版的な楽曲となっている。
流麗なギターソロも聴き所である。
QueenのBohemian Rhapsodyにインスパイアされたようなミュージックビデオも作られている。
Brothers of Metal – Kaunaz Dagaz
スウェーデン発、ヴァイキングのようなコスチュームに身を包んだ姿がインパクト抜群の、8人組大所帯バンドの2ndアルバムからのナンバー。
この曲のタイトル(カウナツ・ダガーツ)は日本人には馴染みにくいが、古代の北欧で使われていたというルーン文字で「火の夜明け」を意味するという。
何処かフォーキッシュな響きのあるメロディ、パワーメタルらしい突進力、美しくも力強い女性ボーカル、イルヴァ・エリクソンの歌声が渾然一体となっている。
デビューアルバムは2017年発表と新しいバンドなのだが、雄大な世界観が視覚的に表現されるような楽曲からはすでに大物の予感を感じさせる。
実際、欧州では既に人気が爆発しているようだ。
Gloryhammer – Angus McFife
2013年デビューのイギリスのシンフォニックパワーメタルバンドGloryhammerの代表曲。
それぞれのアルバムでストーリーを設定していて、ステージ上ではストーリー上のキャラクターに扮してそれぞれのメンバーがコスチューム姿で演奏する。
この曲のタイトルであるアンガス・マクファイフとは架空の王国ファイフ王国の王子で、歌詞は王国を襲ったザーゴスラックスに復讐を誓い、さらわれた王女イオナ・マクダガルを救うため旅に出るという内容。
重厚な雰囲気のミドルテンポナンバーだが、終始キャッチーな歌メロが貫かれている親しみやすい楽曲となっている。
記念すべき最初のミュージックビデオが作られたのもこの曲で、アンガス・マクファイフやザーゴスラックスに扮した彼らを見ることが出来る。
Royal Hunt – Last Goodbye
90年代半ば頃に日本とヨーロッパを中心に人気だった、デンマークのバンドRoyal Huntの3rdアルバムのオープニングチューン。
この曲は荘厳でクラシカルなキーボードリフが印象的で、ネオクラシカル系の究極ナンバーの一つだろう。
基本的にたっぷりとした中低音で歌いつつ、要所要所でハイトーンをばっちり決めるDC・クーパーのボーカルも冴えわたっている。
まるでRPGゲームかのようなRoyal Huntの独特の音楽性の魅力が、この曲に集約されている。
Bloodbound – Moria
スウェーデンのバンドBloodboundの人気ナンバーの一つ。
ヨーロッパで今流行りの、ミドルテンポで歌重視のパワーメタルスタイルである。
とにかくこの曲はサビのメロディに尽きると言っても過言ではなく、ライブでは一緒に歌いたくなること間違いなしである。
ギターソロのコード進行もベタだがツボを押さえていて、王道ど真ん中のクサメロがたまらない。
トビアス・サメットとブルース・ディッキンソンを足して2で割ったようなパトリック・ヨハンソンの魅力的な歌声が、曲の持つポテンシャルを最大限に引き出していることも注目すべき点である。
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