KK’s Priestの「Sermons of the Sinner」レビュー(新作)

  


2021年10月1日発売


1. Incarnation
2. Hellfire Thunderbolt
3. Sermons Of The Sinner
4. Sacerdote Y Diablo
5. Raise Your Fists
6. Brothers Of The Road
7. Metal Through And Through
8. Wild And Free
9. Hail For The Priest
10. Return Of The Sentinel


ブリティッシュヘヴィメタルとしての矜持が炸裂

Judas PriestのK.K.ダウニング(今年で70歳!)が、同じく元Judas Priestのティム”リッパー”オーウェンズ(ボーカル)、レス・ビンクス(ドラム)らと共に結成したバンド、KK’s Priestのデビューアルバム。
しかしレス・ビンクスは腕の怪我が理由で離脱、本作ではショーン・エルグなる人物がドラムを叩いている。

元々K.K.はJudas Priestに戻りたかったようで長年その時を待っていたが、バンドからの良い返事が来ることはなく、そうであれば前に進むしかないということでこのバンドの構想がスタートした。

Judas Pristのソングライティングの要を担っていたのはグレン・ティプトンだっただけに、K.K.一人で曲が作れるのかという疑問があるが、内容はどうなっているのか。

楽曲レビュー

#1“Incarnation”は嵐の音をバックに男性が語る2曲目のイントロ的トラック。

そして#2“Hellfire Thunderbolt”は雷鳴と共に始まる典型的正統派ヘヴィメタルナンバー。
正統派で硬質なリフは否が応でもJudas Priestを彷彿とさせる。
これが69歳のやる音楽なのか?というテンションの高い楽曲に圧倒される。
リッパーの力強いメタリックな歌声も健在。

#3“Sermons Of The Sinner”は宗教的なムードを醸し出すイントロ(サビでもある)が印象的な曲。
リッパーが擦り切れそうな超絶ハイトーンで頑張っている。

後半はテンポダウンしてメロディアスなパートが登場。
この部分の哀愁漂うムードからは、ブリティッシュらしさが感じられる。
最後はまたイントロの雰囲気に戻る。

#4“Sacerdote Y Diablo”はありがちなリフを使っているが中々カッコいい。
渋いが、それぞれのパートが良く出来ていてその繋がりが良い。

#5“Raise Your Fists”はキャッチーでロックンロール的フィーリングを持ったライブにフィットしそうな曲。
歌詞もライブを意識しているような感じで、K.K.のこのバンドに対しての決意のようなものも感じられる。

#6“Brothers Of The Road”は前曲よりも更に明るいアリーナロック的雰囲気を持ったロックンロールナンバー。
サビがキャッチーで歌いやすく(ポップですらある)、これもライブに合いそうだ。

ギターソロもかなり明るく、ここでもキャッチーな雰囲気を醸し出す。
歌詞はバンドがこれからもロックンロールしていくという決意か。

#7“Metal Through And Through”はクリーンギターによる哀愁漂うイントロで始まる、コーラスも入った荘厳な雰囲気のミドルテンポ曲。
後半はバラードっぽいパートも登場して、プログレッシブな展開に。

#8“Wild And Free”は往年のクラシックメタルっぽいフィーリングの強い典型的な曲。
このロックンロールとメタルの中間的な音像に、正にヘヴィメタルをリアルタイムで作ってきたK.K.のセンスが良く表れている。

#9“Hail For The Priest”は最初はバラード風に始まるが、その後はゴリゴリの正統派メタルに。
リフがJudas PriestのPainkillerっぽいが、テンションが高くこれはかなりカッコいい。

#10“Return Of The Sentinel”はラストを飾る大作ナンバー。
タイトルの通りJudas Priestの名曲The Sentinelのフレーズが取り入れられていて、Judas Priestのファンには嬉しいサプライズ。

展開が作り込まれていて、ブリティッシュヘヴィメタルの矜持を見せつける。
最後は叙情的な展開で締めるのもブリティッシュらしい。

総評

Judas Priest特有のマジックはないが、正真正銘本物のブリティッシュヘヴィメタルとしての矜持が感じられ、しっかりと楽しめる作品には仕上がっている。

所々でブリティッシュらしい哀愁を感じ取ることの出来るアルバムだ。
K.K.が全曲すべて一人で作曲したようで、K.K.一人でもすべてやれるんだぞ、ということを見せつけたアルバムとも言えるだろう。

硬派な正統派ヘヴィメタルソングだけでなく、キャッチーでアリーナロック的なロックンロールナンバーも収録されていて、ここら辺も本家のアルバムを手本にしているのが分かる。
しっかりと音楽性の幅の広さも見せつけている部分、隙がない。

そして未だに凄いリッパーの鋼鉄ボイスは健在で、今作でもパワフルな歌声をたっぷりと聴かせてくれる。

昨今のメタルと比べると、しっかりベースが動き回っていて目立っているのが往年のメタルらしさを感じさせ、その部分はこのバンドの個性となっていると感じる。

しかしこのバンドの歌メロがちょっと弱いのは否めない。
個人的にはロブ・ハルフォードの作る独特でキャッチーな歌メロがJudas Priestの要だと思っているので、最も大事な部分が足りない印象だ。
ここら辺がK.K.が作曲を全部一人でやる体制の限界なのだろう。

今年で70歳になるK.K.の新バンド。
本人としてはJudas Priestは彼の人生そのものだったようで、Judas Priestと関係のない音楽など作りたくなかったようだ。

このアルバムで展開されている音楽は、正にJudas Priestと直接繋がりを感じさせるような曲ばかりである(曲タイトルにもSinnerやSentinelなどJudas Priestを彷彿とさせるワードが使われている)。
K.K.の人生の総決算としての意味合いも強いアルバムと言えるだろう。

しかし後ろ向きではなく、未来への希望がたくさん詰まっているアルバムだ。
そしてまだK.K.は前に進む気満々で、来年には新しいアルバムを作りたいらしい。

Judas Priestに戻れないのなら前に進むしかない。
70歳になるK.K.がその決意をしたことが筆者は嬉しい。
新しいことを始めるのは何歳になっても遅くない。
K.K.を見ているとそう強く感じさせてくれる。

点数

84点

お気に入り曲

Sermons Of The Sinner、Hail For The Priest

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