Iron Maidenの新作「戦術」(Senjutsu)レビュー

  


2021年9月3日発売


Disc 1

1. Senjutsu
2. Stratego
3. The Writing on the Wall
4. Lost in a Lost World
5. Days of Future Past
6. The Time Machine

Disc 2

1. Darkest Hour
2. Death of the Celts
3. The Parchment
4. Hell on Earth


昨今の刺激的な現代ヘヴィメタルを好む若い人達にとって、この音がどう響くのか興味がある

ヘヴィメタルの神様と言えばJudas Priestと、このIron Maidenだろう。
実は世界的人気はJudas PriestよりもIron Maidenのほうが圧倒的に上である。

Iron Maidenはメタルの枠に留まらない、メイデンブランドを確立している稀有なバンドである。
そんな超ベテランで、伝説のバンドIron Maidenの新作が6年ぶりに発表された。

その名も「戦術」で、彼らにとって17枚目のスタジオアルバムとなる。
これは邦題だが、原題はSenjutsuなので、ある意味こっちが本当の原題とも言える。

ここに来て日本語のタイトルをつけてくれたのは日本人としては嬉しい限り。
甲冑を着たエディ(Iron Maidenのマスコットキャラクター)が刀を持っているカバーアートはインパクト抜群だ。

実はこのアルバム、秘密裏に2019年の前半に録音されていた。
その後音源の流出を恐れて、完成された音源は金庫に封じ込まれていた。

予定では2020年に発表される予定だったが、パンデミックの影響により予定が変更、2021年の9月に満を持して発表されたというわけである。
いつも通りプロデュースはケヴィン・シャーリーが担当していて、2枚組80分越えの大作である。

メイデンの新作という時点でかなり敷居が上がっているが、内容はどうなっているのか?

楽曲レビュー

Disc 1

表題曲#1“Senjutsu”は太鼓のようなドラムの音で始まる重厚な曲。
恐らくこの音は和を表現しているのだろう。

淡々としたミドルテンポの曲で1曲目から8分の大作だが、歌メロは悪くない。
タイトルは日本語だが、中近東っぽいメロディリフがキーボードによって奏でられている。

#2“Stratego”はこのアルバムの中だとかなり分かりやすい部類のコンパクトなナンバー。
妖しい雰囲気のリフも印象的だし、サビもキャッチーな佳曲。

#3“The Writing on the Wall”はアコースティックギターで始まるミドルテンポナンバー。
というかこのアルバムのほとんどの曲がミドルテンポである。

ブルースが圧倒的な歌唱力で良質なメロディを歌い上げている。
リフも素晴らしいし、ソロも良い。
アルバムから最初に公開された曲で、アニメーションによるミュージックビデオも作られている。

#4“Lost in a Lost World”はスティーブ・ハリス(ベース)のペンによる大作ナンバー。
淡々としていてやたら間奏が長いが、サビのメロディは中々良い。

#5“Days of Future Past”もこのアルバムではシンプルな部類のナンバー。
アップテンポだし、サビが分かりやすいメロディなのが良い。

#6“The Time Machine”は妖しい雰囲気で始まるナンバーで、2回目のサビが終わってテンポアップしてからの展開が熱い。
ギターが単音でメロディを奏でるパートがあるのだが、これがいかにもIron Maidenらしい。
覚えやすい良メロが基本となっていて、このアルバムのハイライトの一つと言える楽曲。

Disc 2

#1“Darkest Hour”は波の音のSEから始まる、バラードに近いテンポのミドルテンポナンバー。
かなり淡々としている。

#2“Death of the Celts”はこれも淡々としたミドルテンポナンバーだが、間奏になってテンポが上がってからが本番という感じで、どんどん盛り上がっていく。

ギターとベースのユニゾンによるパートはIron Maidenらしい。
インストパートでの展開力が素晴らしく、ベテランの凄みを見せつけていく。

#3“The Parchment”は中近東っぽいリフが印象的なナンバー。
間奏後の歌メロパートのメロディ展開が熱い。
これぞIron Maidenというスケール感のある展開は見事。

そして最後にテンポが上がると盛り上がりは最高潮に達し、満を持してのギターソロの掛け合いと、ギターとベースによるユニゾンが炸裂。

現在のIron Maidenのすべてが詰め込まれたような楽曲である。
ラストは最初の中近東系リフを、アコースティックギターで奏でる形で終わる。

アルバムのラストを飾る#4“Hell on Earth”はこのアルバムの中では比較的テンポが早めの曲。
ドラムが入ってくると勇壮なメロディが奏でられ、名曲の予感が漂ってくる。
メロディがいい感じの、まさしく正統派なメタルソングだ。

プログレッシブな曲の多いアルバムだが、この曲のメロディはメタルらしい。
後半はやはりプログレッシブな展開になって終わる。
普通にもう一回サビが来て欲しかった気もするが、とにかくアルバムはこれで終わり。

総評

1回聴いただけでは全容を捉えるのが大変な、ある意味忍耐力を要するアルバムかもしれない。
しかしある程度展開を覚えてくると、かなりいい作品だということが分かってくる。
長いというだけでつまらないというのは失礼な、しっかりと作り込まれたベテランの作品だ。

衰えが全くないと言ったら嘘になるが、御年63歳のブルース・ディッキンソンの歌い上げが凄い。
ブルースの歌唱がこのバンドの核となっていることを、改めて思い知らされた。

現在でも非常に説得力のある歌声を持っているブルースの力が大きいアルバムで、彼の歌の素晴らしさをたっぷり堪能することが出来る。

このアルバムのほとんどの曲がミドルテンポで長尺であり、刺激を求めるメタル的な聴き方ではなく、プログレのようにじっくりと聴き込むというのがこのアルバムの正しい聴き方な気がする。
ヘヴィメタルというより、プログレッシブロックに近い作品とも言えるだろう。

完全に独自の世界観を確立していて、その追求を今回はより深いレベルでやっている。
最早一般のメタルファンがどうこう言う作品ではなく、分かる人にだけ分かれば良いというスタンスが潔い。

スティーブ・ハリスは別バンドBritish Lionではコンパクトでキャッチーなナンバーを作っているが、このアルバムの彼の曲は特にどれも作り込まれていて、明らかにIron Maiden用の曲作りをしているようだ。

所々で使われているキーボードが怪しい雰囲気を作り出していて、深淵なムードを演出しているのも注目すべき点だ。

ライブ的サウンドを重視するケヴィン・シャーリーのプロデュースは相変わらずモコモコしているが、もうこれも個性となっていて、もうずっとこれでいいよと思わされる。

Iron Maidenの新作は全メタラーにとって必須科目という気持ちがあるが、昨今の刺激的な現代ヘヴィメタルを好む若い人達にとって、この音がどう響くのか興味がある。

点数

88点

お気に入り曲

Stratego、The Writing on the Wall、The Time Machine、The Parchment

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