Metallica/Metallica[名盤レビューシリーズ⑤]

  


1991年8月12日発売


1. Enter Sandman
2. Sad but True
3. Holier than Thou
4. The Unforgiven
5. Wherever I May Roam
6. Don’t Tread on Me
7. Through the Never
8. Nothing Else Matters
9. Of Wolf and Man
10. The God That Failed
11. My Friend of Misery
12. The Struggle Within


アメリカ人としての誇りが注入されている、本物のロックアルバム

アメリカのヘヴィメタルバンドMetallicaの5枚目のアルバムにして、全世界で3100万枚を売り上げたと言われている史上空前のモンスターアルバム。

時は1991年、ヘヴィメタルが古くてダサいものになりつつあり、グランジなどのオルタナティブロック勢が台頭し始めていた。
そんなロックシーンの過渡期に、一つの新しい時代のヘヴィメタルのあり方を提示したのがこのMetallica(通称ブラックアルバム)だった。

それまでのMetallicaと言えばスラッシュメタルのアルバムを作ってきたバンドで、既にかなりの人気があった。
しかしこのアルバムではそれまでのスラッシュメタルのスタイルを捨て去り、新しい表現方法が大胆に取り入れられていた。
時代の空気を上手く掴み、それを彼らの音楽性と上手く融合させたのである。

その時代のオルタナティブロック勢に影響を受けたことは明白だったが、彼らの目論見は大成功し、このアルバムによってMetallicaはモンスターバンドとなっていった。

このアルバムが発表されてから今年(2021年)で丁度30年となる。
それを記念して(?)このアルバムの何が凄かったのかを振り返る。

楽曲レビュー

#1“Enter Sandman”はヘヴィメタルを代表する名曲の一つとして知られている有名な曲。
ミドルテンポでグルーヴたっぷりのリフに乗る、案外とキャッチーな歌メロの組み合わせは新鮮。
それまでのスラッシュメタルでは考えられないような発想で、90年代以降のメタルの方向性を決定づけた重要な1曲。

Nickelbackのような歌モノオルタナ系メタルのルーツはこの曲にあるのではないか。
歌心という新たな武器を身に付けたジェイムズのボーカルも味があって良い。
メタルというより一つのロックソングとして秀逸で、一般の音楽ファンすらも巻き込むことに成功した普遍的な魅力を持った楽曲だ。

#2“Sad but True”もこれまたリフが素晴らしい曲だ。
ラーズ・ウルリッヒの存在感のあるドラミングが楽曲の骨子となっている。
この曲もミドルテンポでグルーヴィで、新しいメタリカの方向性を端的に示している。

ライブを意識して作られたと思われるスケール感が凄い。
空間の処理の仕方が明らかに前作までと異なるのが分かるだろう。
このアルバムの冒頭の2曲で新しいメタリカが主張するものは明白だ。

#3“Holier than Thou”はテンポが速いが、以前のスラッシュメタル的なノリではなく、やはりグルーヴィなリフで展開していく。
3曲目でやっと前作との繋がりが感じられる曲が出てきたと言った所。

#4“The Unforgiven”はメタリカのバンドとしての懐の深さを示した名バラード。
と言っても典型的なメタルバンドのドラマティックなバラードではなく、オルタナティブロックの影響を受けていてクールでオシャレなのがミソ。
アコースティックギターも入っている。

叙情的なメロディを優しく、時に力強く歌うジェイムズの歌の説得力が凄い。
それまでのメタリカでは考えられない、温もりの感じられるバラートどなっている。
こういう曲が書けるようになったということは、メタリカが新たなレベル(ワールドクラス)に達したことを示している。

#5“Wherever I May Roam”は印象的なリフで展開していく、ミドルテンポの典型的なこのアルバムの曲。
重厚な佇まいを感じさせ、威風堂々といった雰囲気を醸し出す。
ギターソロも素晴らしい。

#6“Don’t Tread on Me”は明るいイントロに呆気にとられるが、これも秀逸なミドルテンポのナンバー。
重戦車かのように迫りくるラーズのドラミングが圧巻。

#7“Through the Never”はゴリゴリのリフで押してくるアップテンポのナンバー。
スラッシュメタルの名残を残す攻撃的な曲だが、やはりリフはしっかりとグルーヴィ。

叙情的なアコースティックギターで始まる#8“Nothing Else Matters”はジェイムズがツアー中に恋人を失ったことについて書いたラブソングで、これまた名バラード。
ジェイムズの歌の成長が如実に感じられる、大人のバラードとなっている。

ストリングスも使われていて、メタリカで最も人気のある曲の一つ。
オルタナティブロックの影響を受けた気だるさがミソとなっている。
こういう洗練されたバラードを書けるメタルバンドというのは滅多にいないので、彼らの希少性が分かる。

#9“Of Wolf and Man”はヘヴィメタルらしいゴリゴリのリフが印象的な曲。
やはり前時代的なメタルとは違うモダンなフィーリングを持っている。
サビの歌いまわし、Back to the meaning of lifeの部分がカッコ良すぎで、個人的にお気に入りのナンバー。

#10“The God That Failed”はバキバキのベースで始まる、ミドルテンポでリフ重視の典型的なこのアルバムの曲。
リフはちょっとブルージーなフィーリングも。

#11“My Friend of Misery”は絶望的な雰囲気のあるナンバー。
北欧メタルかという叙情的でダークな場面が全編に渡って展開される。
他の曲とちょっと雰囲気が違うが、ジェイソン・ニューステッド(ベース)が作曲に関わっているせいだろう。

アルバムのラストを飾る#12“The Struggle Within”はマーチングバンド風のドラムで始まる、スラッシーなスタイルの曲。
このアルバムには合わない前作までのスタイルに近い曲なので、この位置に収録されたのだろう。
分かりやすい曲で、この曲に関しては前作までのファンも満足なのではないだろうか。

総評

このアルバムにおいてMetallicaが示した重要な3つの要素はミドルテンポ、グルーヴ感のあるリフ、歌メロだろう。
どれもスラッシュメタルにおいてあまり重視されてこなかったものだ。
メタリカはこのアルバムによって、ほとんど別バンドになったのかというくらいに変貌を遂げた。
それは勇気のある挑戦だったが、Metallicaは勝利した。

このアルバムはリフの重要さと、ロックが持つ本来のグルーヴを伝えてくれる。
時代の波を忠実に捉えた驚異的なアルバムだ。

ジェイムズの歌唱力が格段に上がっていて、彼がスクリーマーから本物の歌手になったアルバムでもある。
The UnforgivenとNothing Else Mattersというこのアルバムの2曲のバラードで彼が披露した歌唱はとてもエモーショナルで、多くの人々の心を打った。

このアルバムでスケール感のあるロックサウンドを作り上げたプロデューサーのボブ・ロックの功績も見逃せない。
この時代の音としては最高峰の出来で、今聴いてもほとんど古臭く感じられないこのプロダクションは革命的だ。

ドラムのリアルな質感を上手く捉えているし、しっかりとベースの音もバキバキに主張している。
ギターのバランス感も絶妙で、すべての音がちゃんと聴こえたまま、こじんまりとなっていない空間処理が素晴らしい。

アメリカ人としての誇りが注入されている、本物のロックアルバムである。
プロダクションだけでなく、楽曲そのものが古く感じられないのは凄いことである。

メタルシーンの過渡期を象徴する超重要なアルバムの一つであることは間違いなく、メタル史上に燦然と輝く時代を超えた名作である。
このMetallicaはPanteraのCowboys from Hellと共に、90年代のメタルの方向性を決定づけたメタル史上においてのゲームチェンジャー的なアルバムであったと言える。

現在のオルタナティブメタル系の歴史はこのアルバムから始まったとも言え、後進のバンドにとてつもない影響を与えることとなった。

点数

93点

お気に入り曲

Enter Sandman、Sad but True、The Unforgiven、Nothing Else Matters、Of Wolf and Man

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