[名盤レビュー]Ecliptica/Sonata Arctica[名盤シリーズ①]

Sonata Arctica – Ecliptica[レビュー]

  


1. Blank File
2. My Land
3. 8th Commandment
4. Replica
5. Kingdom for a Heart
6. FullMoon
7. Letter to Dana
8. UnOpened
9. Picturing the Past
10. Destruction Preventer


若さ溢れる演奏と劇的な美メロに圧倒される

温故知新。
名盤シリーズと題して、今後名盤を振り返っていこうと思う。
記念すべき第一回は個人的に思い入れの強いこのアルバム。

フィンランドのパワーメタルバンドSonata Arcticaの、衝撃の1stアルバム。
2000年代前半はパワーメタル(当時はメロスピとかメロパワとか言われていた)がちょっとしたブームとなっていたが、そのムーブメントを牽引していたバンドの一つがSonata Arctica。

Sonata Arcticaの名前を世界に知らしめたのが、この1999年発表の1stアルバムだ。
パワーメタルファンなら皆知っている有名なアルバムだと思うが、改めてこのアルバムの凄さを振り返ってみたい。

楽曲レビュー

アルバムを再生すると、いきなりドラムから歌にすぐ入りびっくりする。
もう最初からアクセル全開という感じで始まる、衝撃のパワーメタルチューンBlank Fileだ。

しょっぱなから尋常ではない美旋律が炸裂する。
しかも凄いスピードに、ネオクラシカルなギターとキーボードのソロ。

Stratovariusを参考にしているのは分かるが、すべてにおいてアップデートしてしまっている。
Stratovariusはこんなに上下する劇的なメロディを使わないし、溢れるパワーが桁違いだ。

こんなに早いのに、流麗でフックのありすぎるメロディのインパクトが凄い。
これは並みのバンドではない、ということがこの1曲だけで明らかとなる。

この曲に魅了されソナタにハマったメタルキッズも多いのではないか。
歌詞は店でもらうボーナス・カードついてのことらしく、人々が監視される社会に警鐘を鳴らしている。

#2“My Land”は一転して叙情的なムードで始まる、ミドルテンポ~アップテンポのナンバー。
この曲もとにかくメロディが美しく、聴き入ってしまう。
このテンポでもヤニ・リマタイネンのギターはテクニカルでキャッチー。

曲全体に漂う透明感と哀愁感が素晴らしく、早くもスピードだけではないことを見せつける。
後半はダブルベースドラムも登場しパワーメタルらしくなる。

嘘についての歌だという#3“8th Commandment”は、ソナタにしては珍しくギターリフのある疾走パワーメタルナンバー。
ネオクラシカルな要素も強く、ギターソロとキーボードソロで存分に楽しませてくれる。

#4“Replica”はバラードで一休みという感じだが、これもクオリティが凄く、一休みのレベルではない。
うっとりする程美しいヨーロッパらしいバラードで、やはりメロディの作り方が上手い。
後半テンポが上がるがこれも自然で、すべての展開がぴったりはまるパズルのように整合性があるのが、このアルバムの曲の凄い所だ。

Royal Huntかというネオクラシカルなイントロが超印象的なナンバー#5“Kingdom for a Heart”に続く#6“FullMoon”は、フィンランドでも大人気の彼らの代表曲。
狼男についてのこの曲はとにかくサビが強烈にキャッチーで、一緒に歌いたくなる魅力に溢れている。

このアルバムの2つ目のバラードで、秀逸なメロディと共に好きな人への想いをつらつらと鬱屈に語る#7“Letter to Dana”に続く#8“UnOpened”は、ストレートで分かりやすいネオクラシカルパワーメタルナンバー。
個性的なメロディがどんどん繰り出される様は圧巻だ。
これは想いを女性に伝えることに怯える男性の歌のようで、メタルバンドらしからぬ恋愛の歌が多いのも彼らの特徴だ。

9曲目はこのアルバムでは地味と思われがちなPicturing the Pastだが、実はこれも素晴らしい。
ヤニがネオクラシカルなギターフレーズをイントロで弾いていて、テクニカルなギタリストだということを見せつける。

ラストを飾る#10“Destruction Preventer”はちょっとした大作ナンバー。
アメリカとロシアの冷戦についての曲らしく、核兵器の恐怖について歌っている。

他の曲よりもよりStratovariusっぽいナンバーに感じるのは、歌メロがゆったりしているからか。
緩急織り交ぜた展開からは、後にあらわになるプログレッシブの片鱗をうかがわせる。

総評

改めて聴くと、若さ溢れる演奏と劇的な美メロに圧倒される。
アルバム全体の流れとしては緩急があって、飽きさせないように工夫されているが、全体的な印象として受けるのは圧倒的なハイテンションである。

バラードなども入っているのだが、全編疾走パワーメタルで貫かれているかのような錯覚を受ける。
箸休め的な曲も含めて捨て曲は一切なく、これが当時平均年齢二十歳そこそこの若者が作ったとは信じがたい成熟さがある。

そう、このアルバムからは若さ溢れるエネルギッシュな演奏と共に、音楽的な成熟さも感じることが出来るのだ。

Stratovariusのモノマネではなく、それを超えた新しいパワーメタルのスタイルを、1stで確立してしまったことにこのアルバムの凄さがある。
このアルバムの後出てきた多くのバンドがソナタフォロワーと形容されたように、彼らはこの1stアルバムで新たな音楽スタイルを創造してしまったのである。

溢れ出るメロディの洪水が止まらないアルバムであり、メロディメイカーとしてのトニー・カッコ(Vo&Key)の才能が爆発している。
音楽的には別段難しいことをしているわけでもなく、音楽に大切なのはメロディなのだとこのアルバムは教えてくれる。

ネオクラシカルな成分も強く、今思うとイングヴェイ好きのヤニが、初期のソナタに貢献していたんだなと思わされる。
典型的なヨーロッパ人の音楽でもあり、筆者はこのアルバムを聴くと北欧の寒々しい風景をイメージする。

圧倒的なハイテンションが最後まで貫かれた、究極のパワーメタルアルバムであると断言する。
天才トニー・カッコの才能をまざまざと見せつけた、奇跡の名盤である。

点数

99点

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