[レビュー]Sonata Arctica – Clear Cold Beyond[新作]


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2024年3月8日発売


1. First In Line
2. California
3. Shah Mat
4. Dark Empath
5. Cure For Everything
6. A Monster Only You Can’t See
7. Teardrops
8. Angel Defiled
9. The Best Things
10. Clear Cold Beyond
11. A Ballad For The Broken *
12. Toy Soldier (Martika Cover) *

* 日本盤及び、ヨーロッパ版デジパック及び、アナログ盤のみ収録のボーナストラック


トニー・カッコによるパワーメタルへの再挑戦

アコースティックツアーと2枚のアコースティックアルバム。
前作Talviyöが意図せずソフトな仕上がりになってしまったこと。
ライブでパワーメタルソングを演奏して得た、ファンからの素晴らしいフィードバック。

これらの要因が複合的に重なり、トニーが選んだ道はパワーメタルへの回帰だった。
アコースティックアルバムを2022年出した時のインタビューで既に、「次のアルバムはスピードメタルをやりたい」と話していたトニー。

彼らがパワーメタル路線のアルバムを最後に出したのは約20年前でかなりのブランクだが、今の彼らに疾走メロスピなど可能なのか?

そんな疑問と期待が渦巻くSonata Arcticaの新作Clear Cold Beyondの全曲レビューと、全体の感想をメモとしてここに書いておく。

全曲レビュー

#1“First In Line”はドラム~ボイスシンセ~ピックスクラッチ~美メロ疾走の流れで、聴く者を一気に往年のパワーメタルの世界に引き込む名曲。
アルバムの核となるナンバーで、この1曲でこのアルバムの方向性を端的に説明している。

ソロも久しぶりに弾きまくりで、高揚感を煽られる。
Aメロ~Bメロ~サビの流れが完璧で、ありそうでなかった新鮮な歌メロは正にトニー・カッコの天才ぶりを示している。

歌詞は押し寄せるAIテクノロジーの進化についての懸念らしい。

#2“California”はイントロからキラキラキーボードで疾走する、1曲目以上に初期を彷彿とさせる曲。
ハッピーだが切なさもあるサビのメロディが印象的。

SONATA ARCTICA – California (Official Music Video)

↑ Californiaのミュージックビデオ。

#3“Shah Mat”はモダンなシンセサウンドで始まり意表を突かれるが、歌が入るとアグレッシブに疾走。
サビは結構明るめな雰囲気に。

一筋縄ではいかない曲展開は、Unia以降のSonata Arcticaらしさも感じさせる曲。

#4“Dark Empath”はThe End of This Chapterから続くCalebサーガに連なる曲。
Don’t Say a Wordを彷彿とさせる力強さと壮大さがあるが、Unia以降のシアトリカルさも強い曲。

最初テンポがコロコロ変わる変な曲だと思ったが、最終的にはどちらかというと、アグレッシブな曲に着地しているのが上手いと思った。
Cメロ後に疾走するパートが一番カッコイイが、全体的に良く出来た曲で、シングルになったのも納得。

SONATA ARCTICA – Dark Empath (Official Music Video)

↑ Dark Empathのミュージックビデオ。

#5“Cure For Everything”は初期ファン大興奮間違いなしの、美メロ疾走系。
往年の曲のような背筋がゾッと来るような、ハーモニーとメロディの妙が聴ける。

初期ファンに感謝を告げるかのような、希望的な歌詞も素晴らしい。

#6“A Monster Only You Can’t See”はミドルテンポでポップさとキャッチーさがある、2ndシングルになった曲。
バラード調から始まり、次第にヘヴィになっていくアレンジが面白い。

途中デヴィン・タウンゼンドばりのヘヴィなパートも出てくる(※トニーはデヴィンが大好き)。
全体の仕上がりとしてはハッピーなコーラス満載の、ポップな曲に着地している。

SONATA ARCTICA – A Monster Only You Can't See (Official Lyric Video)

↑ A Monster Only You Can’t Seeのリリックビデオ。

#7“Teardrops”はチェンバロのサウンドが、クラシカルな雰囲気を醸し出すミドルテンポ曲。
地味だが深みを感じさせる曲で、トニーがこのアルバムでお気に入りのナンバーらしい。

こういう曲もアルバムには必要で、アルバムに多彩さをもたらしている。

#8“Angel Defiled”はキター!って感じのイントロから大興奮。
Flag in the GroundやCloud Factoryのフォーク系メロディを継承する曲。

最初はスピードチューンじゃなかったらしいが、パワーメタルにして大正解。
メロディが耳から離れない、癖になる曲に仕上がっている。

まるでジンギスカンのような、ある意味ダサいメロディが最高。
ダサさとカッコ良さの際どいラインを責めて、成功している曲と言えるかもしれない。
ライブでもやるらしいので楽しみ。

#9“The Best Things”
ここに来てシンプルな、暖かみのあるバラートが登場。

トニーの歌唱が沁みること。
離れている家族へ感謝を伝えているという歌詞も良い。

こういう曲をやれるのが、Sonata Arcticaがメタラー以外にも人気がある理由なのだろう。

#10“Clear Cold Beyond”は本編ラストを飾るアルバム表題曲。
ちなみに表題曲があるのはSonata Arctica初である。

若干プログレッシブで、不穏な空気感と浮遊感を感じさせるバラードで、トニーのエモーショナルな歌唱が聴ける。
宇宙を感じさせる、壮大な雰囲気もある。

パワーメタル主体のこのアルバムを、新鮮なこの楽曲で締めるのが上手い。
もう一度アルバムを聴きたいって思わされる。

ちなみに曲が終わった後の無音の後、ちょっとしたお遊びが聞ける。
これは初期のアルバムでもやっていたもので、ここからも往年のスピリットの継承を感じ取ることができるのだ。

#11“A Ballad For The Broken”は日本盤及び、ヨーロッパ版デジパック及び、アナログ盤のみ収録のシンプルなバラード(サブスクでは聴けない)。

コード進行といい優しげなメロディといい、これは最早ポップスだがクオリティは高く、この曲のためだけにフィジカル版を手に入れる価値があるというものである。
トニーの歌声には人を癒す何かがあるということを、この曲が証明している。

#12“Toy Soldier (Martika Cover)”。
こちらも日本盤及び、ヨーロッパ版デジパック及び、アナログ盤のみ収録の、1989年発表の全米No.1のヒット曲、Toy Soldiersのカバー。
原曲と比べてテンポがアップしていて、軽快な雰囲気のポップロックに仕上がっている。

総評

トニーの言っていた通り、パワーメタルを主体にしたアルバム。
冒頭3曲連続で疾走曲という降り切りぶりには驚いた。
あれだけパワーメタルに嫌気が指していたのが、嘘のようである。

初期のサウンドを意図的にこの時代に再現しようとしたアルバムで、とにかくSonata Arcticaがパワーメタルバンドに戻ったことはいいことだと思う。
Sonata Arcticaでやれない音楽はこれからはHimmelkraft(ソロプロジェクト)でやっていくのだろう。

音楽的な棲み分けをすることで、ファンの求める極端なサウンドを提供することに成功したという部分は大きいだろう。

ある意味過去を再現しようとしたというアプローチは、彼らにとって初めての試みだが、そのサウンドは焼き増しとは程遠い新鮮なサウンドになっていることが素晴らしい。
どのパワーメタルソングもメロディが陳腐じゃないので、ちゃんと完全なる新曲として響き渡る。

やはりトニー・カッコはパワーメタルの作曲家として、天才だと言わざるを得ない。

往年のサウンドに間違いなく回帰しているが、今まで学んできた技もそこかしこで見え、洗練されているのも特徴。

具体的に言うとAメロ~Bメロ~サビ×2というような、典型的な曲展開を意図的に避けているように感じた。
これによってどの曲もいい意味で予測不可能になっていて、すぐに飽きることのない楽曲になっている。

モダンなアレンジも随所で見られ、「典型的な昔のメロスピ」にはなっておらず、しっかりと現代のサウンドになっていることも特筆すべき点だ。

そしてパワーメタルを主体にしたアルバムだが、Unia以降の音楽性の多彩さも忘れてはいない。
後半にミドルテンポの曲が固まっているが、どの曲もキャラ立ちしているのでダレる瞬間がないのだ。
このアルバムは良く出来た「音楽の旅」で、流れが完璧なのである。

そして初期のアルバムのミックスを担当していた、ミッコ・カルミラを呼び戻したのは大正解である。
彼のミックスは最高で、本当にあの頃のサウンドが現代に蘇っている。
クリアで分離の良い音は、Sonata Arcticaの北欧の透明感を余すことなく伝えている。

ニコ・アンティラの手による、Sonata Arcticaのイメージ(北欧の雪景色)が具現化されたような、美麗なアートワークもグッド。

トニーいわくしばらくはこの路線で行くようだが、トニーの言うことはコロコロ変わるのでどうなるか。
次のアルバムはインスピレーションが湧いているので、早く作りたいとも言っているトニー。

次のアルバムは4年半も待つというようなことはなさそうだ。
久しぶりの来日にも前向きのようで、これらのパワーメタルソングが日本でも披露される日はそんなに遠くなさそうだ。

点数

92点

お気に入り曲

First In Line, California, Dark Empath, Cure For Everything, Angel Defiled

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