2022年10月21日発売
1. Welcome to the Shadows
2. The Wicked Rule the Night
3. Kill the Pain Away
4. The Inmost Light
5. Misplaced Among the Angels
6. I Tame the Storm
7. Paper Plane
8. The Moonflower Society
9. Rhyme and Reason
10. Scars
11. Arabesque
究極のメタルオペラプロジェクトの最新作
Edguyのトビアス・サメットが、マイケル・キスクにパワーメタルを歌わせたいが為にスタートしたメタルオペラプロジェクトだったが、今ではこっちが本職になっている感のあるAvantasiaの9thアルバム。
お馴染みのメンバーに加え、今回ラルフ・シーパース(Primal Fear)とフロール・ヤンセン(Nightwish)が新たに参加していることが注目すべき点だ。
前作Moonglowで遂にドイツの総合チャートで1位を獲得し、乗りに乗っているこのプロジェクトの最新作はどうなっているのか?
楽曲レビュー
#1“Welcome to the Shadows”は深夜1時に見ていたジョン・カーペンター監督のホラー映画「クリスティーン」にインスパイアされたという、シアトリカルでシネマティックな曲。
クリスティーンのサウンドトラックを分析し、ヴィンテージなシンセサイザーを試しているうちに生まれたというこの曲は、印象的な明るいキャッチーなサビを持っていて、アルバムのスタートにぴったりの佳曲と言える。
この明るいサビは近年のAvantasiaらしく、Meat Loafライクな雰囲気を醸し出している。
#2“The Wicked Rule the Night”は最初にシングルとしてアルバムから先行で発表された、ラルフ・シーパース参加曲。
EdguyのHellfire Clubの頃を彷彿とさせる、攻撃的正統派パワーメタルソングである。
ラルフが金属的な超絶ハイトーンで頑張っている。
最近のAvantasiaは大人しい曲(ある意味円熟した曲)が多かったので、これは昔からのファンには嬉しい曲ではないだろうか。
↑ The Wicked Rule the Nightのリリックビデオ。
#3“Kill the Pain Away”はフロール・ヤンセンを念頭に置いて書いたという、モロにNightwishライクなアップテンポ曲。
NightwishのAlpenglowと同じようなメロディが出て来るが、勿論しっかりとAvantasiaの個性も出ている。
クワイヤもたっぷりと使われていて、トビアス流シンフォニックメタルを堪能出来る。
#4“The Inmost Light”はキーパー伝説を継承する、お決まりのマイケル・キスク(Helloween)参加曲。
メロパワの原点はやっぱりこれでしょ、と感じさせる爽快で太陽のように輝くメロディが印象的なHelloweenリスペクト曲。
今までのAvantasiaの「これ系」の曲は長尺だったので、今回は無駄をなくしコンパクトに仕上げたという。
これが正解で、かなり聴きやすいキャッチーなメロパワ曲に仕上がっている。
キスクのハイトーンが出続ける限りこういう曲を歌い続けてくれたら嬉しいと、素直に思わせられる良曲。
#5“Misplaced Among the Angels”もフロール・ヤンセン参加曲で、壮大でディズニー映画のような雰囲気を醸し出すバラード。
ここに来て一休みという感じで、アルバムの良いアクセントになっている。
勿論これも全く捨て曲ではなく、作り込まれた良曲である。
#6“I Tame the Storm”はヨルン・ランデ(元Masterplan)参加の典型的欧州メロディックメタル曲。
やはりこういう曲を歌わせたらヨルンは熱く、この熱い歌唱と分かりやすいメロディのコンビネーションは何というか、アニソン的なノリも感じさせる。
サビのメロディの良さ一本で攻めるような、潔さを感じさせる曲だ。
#7“Paper Plane”はロニー・アトキンス(Pretty Maids)参加の、ファンタジックで幻想的な雰囲気を醸し出すマッタリとした曲。
典型的なAvantasiaの世界観で好きだが、サビでのロニーの歌声が音量抑え目で聴きにくいのが残念(そもそもトビアスの下ハモリパートを歌っているのが大きな原因なのだが)。
#8“The Moonflower Society”はボブ・カトレイ(Magnum)参加の表題曲。
イントロからして相当にキャッチーなミドルテンポ曲に仕上がっている。
特にサビが素晴らしく、一緒に歌いたくなる魅力に溢れている。
ボブ・カトレイも得意なミドルの音域で活き活きと、躍動感溢れるように歌っていて、これがボブ・カトレイの正しい使い方だと思わせられる。
間奏とアウトロでは鉄琴が使われていて、ここでもファンタジックなムードをリスナーに印象付ける。
ミドルテンポ曲でも良い曲が書けるトビアスの、地力が出た曲だと言える。
↑ The Moonflower Societyのミュージックビデオ。
#9“Rhyme and Reason”はエリック・マーティン(Mr. Big)参加曲で、意外にも欧州メロディックメタル系(Mr. Bigはカラっとしたアメリカンハードロック)。
イントロからメロディアスなハモリギターが炸裂する。
サビは明るく、全体的に軽快なリズムが印象的な曲だ。
メロディックメタルなのだが、エリックが歌うとブラックミュージックのムードがちょっと出るから不思議だ。
これもキャッチーな佳曲である。
#10“Scars”はトビアスの最もリスペクトしているシンガーの一人、ジェフ・テイト(元Queensrÿche)参加曲。
ミドルテンポ曲だがサビはかなり高く、彼の伸びやかなハイトーンボイスが活かされている。
今までの彼のAvantasia曲はちょっとQueensrÿcheに寄せたダークな曲だったが、この曲では素直に彼のシンガーとして魅力を前面に出そうとしている印象がある。
変にQueensrÿcheを意識しない、自然体のトビアスのソングライティングだと思ったが、ジェフ・テイトを念頭に置いて作曲されたかどうかは調べても分からなかった。
#11“Arabesque”はヨルン・ランデとマイケル・キスク参加の、アラビアンな要素を内包した壮大な長尺ナンバー。
イントロと間奏ではバグパイプが使用されている。
サビではキスクのハイトーンが炸裂し楽曲を盛り上げる。
全体的にはミドルテンポで淡々としているが、印象的なフレーズも結構ある。
総評
究極のメタルオペラプロジェクトの最新作は、パンデミックの影響で制作時間がたっぷりあったようで、それがしっかりと反映されていると感じさせる充実作だ。
欧州メロディックメタルの引き出しをすべて網羅したかのような楽曲の幅広さが、このプロジェクトの魅力になっていることを再確認した。
それぞれのシンガーの個性を活かした色々なタイプの楽曲が収録されているので、アルバムをフルで聴いてもダレないのは強い。
近作ではファンタジック、シアトリカル系に寄り過ぎて、メタル度が薄くなってきていた感もあったが、今作ではメタル度が戻ってきているのが嬉しい。
この辺のバランス感覚、流石トビアス・サメットである。
トビアスのソングライティングは円熟の域に達していて、どの曲も抜かりない出来である。
トビアスの才能と人脈とコミュ力をフルに活用したこのプロジェクトは、誰にも真似の出来ない価値のあるものなので、このプロジェクトが末長く続いていくことを願っている。
あとトビアスが毎回誘って断られている(無視されている?)Iron Maidenのブルース・ディッキンソンが、いつかこのプロジェクトに参加してくれることも願っている。
ちなみに今作のドイツ総合チャートでの記録は初登場3位で、2作連続1位は惜しくも逃している。
点数
87点
お気に入り曲
Welcome to the Shadows, The Inmost Light, The Moonflower Society, Rhyme and Reason
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