1. Out for the Glory
2. Fear of the Fallen
3. Best Time
4. Mass Pollution
5. Angels
6. Rise Without Chains
7. Indestructible
8. Robot King
9. Cyanide
10. Down in the Dumps
11. Orbit
12. Skyfall
すべての才能を結集して作られた渾身の作品であり、新たな金字塔をここに来て作り上げたことに脱帽
ドイツのメロディックパワーメタルの始祖、Helloweenの16枚目のアルバムだ。
このアルバムはただのベテランバンドの16枚目のアルバム、というだけのアルバムではない特別なアルバムである。
Helloweenを偉大なバンドたらしめている名盤と言えば、キーパーシリーズ(Keeper of the Seven Keys: Part IとKeeper of the Seven Keys: Part II)である。
このアルバムに当時参加していたメンバーの、マイケル・キスク(ボーカル)とカイ・ハンセン(ボーカル&ギター)が参加しているのだ。
マイケル・キスクは93年のChameleon、カイ・ハンセンは1988年のKeeper of the Seven Keys: Part II以来のHelloweenのアルバム参加となる。
ここまで来るまでには長い道のりがあったことはファンなら知っての通りだが、ここでは割愛。
思い入れを出来るだけ考慮しないで、公平にレビューしようと思う。
更にこのアルバムがスペシャルなのは、現ボーカルのアンディ・デリスと、元ボーカルであるマイケル・キスク、カイ・ハンセンによるトリプルシンガー体制になっていることだ。
カイ・ハンセンはギターも弾くので、ギターもマイケル・ヴァイカート、サシャ・ゲルストナーとのトリプルギター体制だ。
現在のHelloweenメンバーが誰も離脱することなく、キスクとカイを加える。
このアイディアは本当に秀逸で、既にこのメンバーで大規模な世界ツアーも行っている。
ツアーにより結束が高まった後に、いよいよ制作されたのがこのアルバムなのである。
さて、まずアルバムのカバーアートが印象的だ。
ベルリンを拠点とするエリラン・カンターというアーティスト兼イラストレーターによるもので、キーパーシリーズを彷彿とさせるものとなっているが、油絵というのが新鮮だ。
重厚な雰囲気漂うこのカバーアートから、名盤の匂いがプンプンする。
各曲レビュー
CDを再生すると1曲目の“Out For The Glory”が流れてくる。
これぞヴァイキーというハロウィン節炸裂の曲で、一気にキーパーの世界に誘われる。
まさか2021年にヴァイキーの曲がキスクの歌声で聴けるとは・・・!
それだけで感動している自分がいる。
疾走ダブルベースドラムに、太陽のように輝く希望的なメロディ。
これがHelloweenだ!というヴァイキーのプライドを示したような1曲だ。
2曲目は先行シングルとして既に発表されていたFear Of The Fallen。
アンディのペンによるものだが、これがまさかのキラーチューン。
今回作曲面で期待されていたのはヴァイキーとカイだと思うが、Helloweenのボーカルは俺だ!と言わんばかりのプライドをここでアンディが見せつける。
アンディらしいメロディだが、Helloweenのバンドアレンジにより、強力なフックのあるパワーメタルングに仕上がっている。
間奏後のアンディとキスクによる、リッスントゥユアハートの掛け合いのパートがハイライトだろう。
こんなボーカルアレンジは以前のHelloweenではあり得なかったことで、これがトリプルボーカルの活かし方というものだろう。
まるでメタルオペラの様相を呈している。
静と動の対比も素晴らしく、本当に良く出来ている。
静の部分の妖しい雰囲気も素晴らしく、アンディ面目躍如の曲である。
3曲目のBest Timeはマイケル・キスクの別バンドで、カイ・ハンセンも参加しているUnisonicっぽいメロディアスハードロック的なナンバー。
クールな雰囲気にフックのあるサビと、良曲だ。
歌詞も前向きな感じで、キスクの境遇を彷彿とさせる。
#4“Mass Pollution”は典型的なアンディロックナンバー。
Helloweenがロックンロールバンドだということを示す、大事な一曲だと思う。
こういうワイルドな曲を歌うのにフィットするのはやはりアンディだろう。
#5“Angels”はサシャのペンによるモダンな雰囲気のあるナンバー。
オシャレな雰囲気もあり異色作という感じがするが、こういう曲がアルバムに深みをもたらす。
途中ピアノをバックにキスクが低音で歌うバラードっぽいパートがあり、凄くカッコいい。
サシャは今回アルバムに曲提供するつもりはなかったらしいが、他のメンバーに書いたほうがいいと言われ書いたらしい。
書いてよかった。
#6“Rise Without Chains”はこれまたフックのあるアンディのペンによる曲。
本当に今作のアンディの曲は素晴らしい。
サビがいかにもアンディ節だが、しっかりパワーメタルしている。
キスクがこのサビを歌うことで、より素晴らしくなっていると感じる曲だ。
#7“Indestructible”はマーカスの曲で、相変わらず良い仕事をしている。
このサビの抜けるような爽やかさは、キスクにしか出せなかったであろう。
今作は本当にキスクによって、音楽の表現の幅が広がったと感じさせられる。
#8“Robot King”は最近のヴァイキー曲らしいハードさと、Helloweenらしいパワーメタル感を兼ね備えた曲。
これがHelloweenの王道だ!と定義づけるような曲をヴァイキーは今作で書いている。
典型的ではない曲展開でもあり面白い。
サビはまるでDragonForceのような2段階形式だ。
間奏後のテンポダウンしたパートの歌メロが、妙に耳に残りクセになる。
#9“Cyanide”はアンディのペンによるロックンロールナンバー。
この曲はちょっとアンディのソロっぽい雰囲気だが、佳曲と言える。
サビのメロディが少しHelloweenとしては新鮮な感じである。
#10“Down In The Dumps”はヴァイキーの曲で、サビでちょっと肩透かしを食らうも、その後の展開が素晴らしいひねりのある曲。
今作のヴァイキー曲はOut For The Glory以外はちょっとひねり系かもしれない。
しかし間奏のツインギターによる展開は、これぞHelloweenだ。
短いイントロの#11“Orbit”に続くのは本作のラストを飾る#12“Skyfall”。
今作でカイ・ハンセン提供の曲はこの1曲のみだが、12分にも及ぶ大作で、渾身の一曲となっている。
カイ・ハンセンのヘヴィメタル魂をこの一曲に注ぎ込んでいる。
カイ節炸裂の名曲で、昔のHelloweenらしい懐かしさが感じられるが、新鮮さもある。
カイのメインバンド、Gamma Rayらしさも感られるが。
色々展開するプログレ的な曲でもあり、どのパートも本当に素晴らしい。
この1曲だけのためにもこのアルバムを手に入れる価値がある、と思わされる曲だ。
歌詞はカイらしいSFストーリー。
宇宙人が墜落して囚われるが、抜け出して故郷に帰る。
だがしかしそこには誰もいなかった、というような内容。
最後宇宙人は自分の居場所を見つける旅に出たようだ。
この曲はミュージックビデオも作られている。
総評
アルバムの最後の曲Skyfallを聴き終えた時の感想は、凄いものを聴いてしまった、だった。
デビューから36年も経っているベテランバンドが、こんなアルバムを作り上げたことに畏怖の念を覚えた。
何より驚いたのは、過去を踏襲しつつも前に進もうとする意志が強く感じられることだ。
とにかくアルバムから感じれる、フレッシュでポジティブな空気感が心地良い。
ハッピーメタルバンド、ここにありである。
今回キスクの参加により高音が伸びやかに表現出来るようになり、表現の幅が広がった。
(アンディのハイトーンは常にシャウト気味)
サウンド的には80年代のキーパーの頃の雰囲気を目指したらしく、昔の機材を使ってアナログでレコーディングしたらしい。
更にキーパーシリーズでドラムを叩いていた故インゴ・シュヴィヒテンバーグのドラムキットも使ったらしく、全体として温もりが感じられるサウンドになっている。
しかし分離が悪いとは感じられず、素晴らしいサウンドになっていると思う。
プロデューサーにはいつものチャーリー・バウアファイントに加え、デニス・ワードを共同プロデューサーに迎えている。
チャーリーのサウンドはあまり好きではなかったので、今回の変化はデニスによる影響かもしれない。
更に今回、カイ・ハンセンが参加しているおかげかどうか分からないが、アレンジがいつもより作り込んである印象だ。
ギターのアレンジ面で、カイが貢献したのではないかと思わされる部分が多々あるのだ。
最近のHelloweenではなかったようなフレーズが散見されるのだ。
今作のアレンジはとにかく秀逸で、ギターソロも3人いるボーカルの振り分けも、すべてが素晴らしい。
ヴァイキーは、自分が期待されているHelloweenでの役割を徹底した印象だ。
彼の書いた3曲はすべて、Helloweenの音楽を象徴している。
Helloweenのすべての歴史を飲み込み、更に前進した作品だ。
アーティストとはこうあるべき、という鏡のような作品でもある。
大興奮である。
キャッチーさは勿論あり、意外と深さもある。
すべての才能を結集して作られた渾身の作品であり、新たな金字塔をここに来て作り上げたことに脱帽である。
本当に皆がいい曲を書いた。
セルフタイトルに相応しい作品で、ファンの上がり過ぎた期待にしっかりと応えた名盤と言えるだろう。
今回バラードがないが、実は収録を考えていたバラードがあったそうで、アレンジが上手くいかずアルバムの雰囲気に合わなかったため、収録見送りとなったらしい。
メンバーが言うには凄く良いアンディのペンによるバラードらしい。
次のアルバムに入るだろうとメンバーは言っているから、これも期待しておこう。
ちなみにこのアルバムには完全版と通常盤があり、完全版は2枚組で、Disc 2には本編から漏れた曲3曲と、2017年に発表したこのメンバーでの初音源、Pumpkins Unitedが収録されている。
点数
95点
お気に入り曲
すべて好きだが、強いていうならSkyfallとFear Of The Fallen。
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